日本で生活するなかで(仕事したり、どこかへ買い物に行ったり、電車に乗ったり街中を歩いたり……)一番よく使う言葉は何だろうか。
個人的には、やっぱり「すみません」だと思う。謝罪から感謝まで使える万能選手「すみません」。何か起きても、とりあえず「すみません」と言っておけば基本どうにかなると思っているよ(←すみません)。
こんな感じで私はどの言語にも「万能単語(やフレーズ)」があると思うのだが、広東語では「得(dak1)」という単語が使えるようになると「広東語っぽい」会話に近づけそうな気がしている。
広東語の「得(dak1)」
「得(dak1)」には色々な意味があるが、
- 日本語と重なる意味
- 普通話と重なる意味
- 広東語ならでは(個人的にそう感じた)の意味
この3つに分けて復習していきたい。
※以下、広東語の例文はネット検索やChat GPTを使って生成したもので、ネイティブチェックは通っていないのでご了承ください。
日本語と重なる―動詞の「得る」
1つ目は動詞としての用法で、「得る」「獲得する」といった意味。
想得到別人認同
soeng2 dak1 dou3 bit6 jan4 jing6 tung4
(他人の承認を得たい/認められたい)
※想=~したい、別人=他人
得到の「到」はまた違う話になって説明がちょっと難しいのだが、すごく雑に言うと私は得到がセットで「手に入れる」みたいな感じだと理解している。
普通話と重なる―補語へと続く「得」
2つ目は動詞や形容詞と一緒に用いられる「得」だ。中国語の普通話でも同じ用法があるが、それと基本的に同じだと思っている。
講得好快
gong2 dak1 hou2 faai3
(話すのが速い/話すスピードが速い)
補語(ほご)とは何ぞやという話だが、簡単に言うと「~するのが○○だ」を表すときの中国語の表現方法だ。動詞の状態や様子について、後ろの形容詞で説明を加える感じ。
こちらの用法について、詳しくは下記のHong Kong Visionの記事もぜひご参照を。
https://hongkongvision.com/archives/4832
広東語―許可、可能の「得」
そして3つ目、広東語の「得」はさらに「許可、可能(~をすることができる)」の意味になるのを勉強した。
影得相
ying2 dak1 soeng2
(写真を撮ってよい)
※影=撮る、相=写真
食唔食得煙?
sik6 m4 sik6 dak1 yin1
(タバコを吸ってもいい?)
※食=(タバコを)吸う、煙=タバコ
最初は語順が難しいと思っていたが、肯定文を基本に考えれば意外にシンプルだった。
肯定文 | 食得煙 | 喫煙可 | ||
否定文 | 唔 | 食得煙 | 喫煙不可 | |
疑問文 | 食 | 唔 | 食得煙 | 喫煙OK? |
基本、動詞の直後に助詞の「得」を置く。目的語はその後ろに来るので、これで「食得煙」という語順に。広東語の語順でそのまま日本語にすると、「吸う+OK+タバコを」みたいな感じだと思う。
否定文は「唔」を動詞の前に置くから、「唔食得煙」という語順。
最後に、動詞を繰り返すと疑問文になるので、疑問形は「食唔食得煙」の語順になる。
普通話の「可以」や「能」の意味も、広東語では「得」で表せるのが面白くて不思議。中国語には可能補語(~することができる/た)という文型があるが、イメージはそれに近いのかなと思った。
OKのニュアンスを含む「得」の使い方については、同じくHong Kong Visionの記事もご参照を。
https://hongkongvision.com/archives/11118
定型表現の中の「得」
ちょっと小難しい文法の話ばかりしてしまったので、何も考えずに使える定型表現の「得」についても復習してみる。
得唔得閒?(時間ある?)
広東語では「時間ある?」「都合いい?」といったことを聞くときに「得唔得閒(dak1 m4 dak1 haan4)?」と言うのが定型表現になっているようだ。
文法的な説明も当然できるだろうが、そんなに難しいこと考えずとにかく「得唔得閒?」と使っていくのがよい気がする。

以前の記事で紹介した「得閒飲茶?(飲茶に行く時間ある?慣例的に、バイバイの意味)」も同じ「得閒」だ。

「得唔得閒?」と聞かれて、都合がよければ「得。」ダメなら「唔得。」これで会話が済む。
あゝなんとも効率的な香港人の会話よ。日本語みたいに「ごめーん、その日はちょっと予定があって行けないわ~。」とかたらたら言う必要はないらしい。好き。
日本語のように聞こえる「だっからー」
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を見ていて、王九というキャラクターが発する「だっからー」と聞こえる単語がずっと引っかかっていた。
終盤で王九が「だっからー」みたいな事を言ってて、私はどうしても日本語にしか聞こえなかったのだが、この間広東語のネイティブ先生も「だっからー」って言っててそれ何?と聞いたところ「大丈夫!OK!」的な意味らしかった。漢字で書くと「得㗎啦」(dak1 gaa3 laa1)なのかな?(違ったらすみません pic.twitter.com/axLj6yvvV7
— Rii @広東語勉強中 (@rii_in_asia) March 16, 2025
「だっからー」は漢字で「得㗎啦(dak1 gaa3 laa1)」と書いて、「大丈夫、OK、問題ない」といった意味になるそう。
これ、映画の字幕は広東語の音を利用して、「だから遊んでやれ」という日本語字幕になっていた記憶。
「大丈夫だ」などとは訳されていないが、もちろん意味は通じるのでそれこそ「得㗎啦~」。シャレのきいた字幕だと思って感動した。
また、先述の「得唔得閒?」だけでなく、単純に「OK!」という意味でも「得啦(la)~」と言うらしい。
たしかに通っている教室でも、私が「この広東語(使い方とか)合ってる?」と聞くと、ネイティブ先生もよく「得」とか「唔得」と言っているから、日常的に使うものと思っていいだろう。
香港ナビの記事にも「得」の話が少しありました→https://www.hongkongnavi.com/special/5024925
「得」の勢いがなんか好き
日本語の「すみません」然り、よく使われる言葉にはその言語の文化とか人々の考え方がにじみ出ていると思うのだが、広東語の「得」からは広東語の勢いや軽やかさみたいなのを感じる。
今までしれっと書いてきたが「得」の発音は「dak1」で、無理くりカタカナで書くなら「ダッ(ク)」(←クは聞こえるかどうかわからない程度)。
発音自体の跳ねる感じもそうだし、「得啦~」という返答もテンポがよく、重力を感じさせない。
前回の記事でも書いたとおり、広東語ネイティブ先生のスピードにまだ全然ついていけず、歯がゆい思いをすることも多い。1つ1つ表現を覚えながら、少しずつ彼らのテンポに乗れるようになりたい。
コメント
コメント一覧 (2件)
こんにちは!今回もすごく興味深いお話で面白く読ませていただきました。
普通語を履修していらっしゃるからか、比較説明もわかりやすい…そして広東語の持つ「勢い」というところ、私も大好きです。
前回のコメントに返信いただいた広東語のキーボード、私も試してみます〜ありがとうございます✨
次回も楽しみにしてます!
こんにちは!いつもありがとうございます!
思ったより文法の話メインになってしまったのですが、読んでいただけて嬉しいです。
普通話の勉強はややブランクがありますが(汗)何とかやっております。
広東語には日本語にない勢いがあっていいですよね~!引き続き広東語を楽しみましょう✨