【香港映画】『幻愛 夢の向こうに』最後のシーンについて/劉俊謙(テレンス・ラウ)と蔡思韵(セシリア・チョイ)の再発見

2020年7月2日の香港での公開から5年超、『幻愛 夢の向こうに』が2026年2月20日、ついに日本でも公開されました。香港映画『トワイライト・ウォリアーズ』の“信一”こと劉俊謙(テレンス・ラウ)推しになってから、絶対に観たいと思っていた映画の1つが『幻愛』でした。

また、劉俊謙と同じくこの映画で主演だった蔡思韵(セシリア・チョイ)は、この映画での共演後から交際を始めて、2025年10月に結婚を発表。軽井沢での式の様子もとても素敵でした。

目次

あらすじ(ネタバレなし)

劉俊謙(テレンス・ラウ)が演じたのは、李志樂(レイ・ジーロック)という人物です。統合失調症を患っていて幻覚や幻聴といった症状があるものの、今は症状も落ち着いており小学校教師として働きながら生活しています。

そんな日々のなかで、マンションの上の階に住む、蔡思韵(セシリア・チョイ)演じる欣欣(ヤンヤン)という女性に一目惚れし、2人は惹かれあって急速に距離を縮めていきます。しかし、李志樂は自身の統合失調症について欣欣に打ち明けることができず、悩んでいました。そうするうちに李志樂の統合失調症の症状が悪化し、小学校教師の仕事も休職することになります。

その後、李志樂は治療のために通っていたカウンセリングの場で、欣欣にそっくりな女性・葉嵐(イップ・ラム)=蔡思韵(セシリア・チョイ)が1人2役 と出会います。葉嵐は心理学を専攻する大学院生で、論文執筆のためにカウンセリングのボランティアを通じて研究対象のデータを集めていました。その葉嵐の研究対象にちょうど合うケースが李志樂で、葉嵐李志樂に論文執筆への協力を依頼することに。

2人はカウンセリングを重ねながら恋愛感情を抱いていくようになりますが、研究者と患者という立場で、その一線を超えた関係になることは許されません。また、葉嵐自身にも人を愛せない過去の経緯があり、2人は様々なしがらみの中で葛藤していきます。

次からはネタバレありの感想や考察になるので、未鑑賞の方はご注意ください。

「信じて見る俳優」劉俊謙

韓国でよく「この俳優が出ていれば、この作品の面白さやクオリティは担保された!」というようなときに“信じて見る俳優(믿보배)”という言い方をしますが、今回『幻愛』を観て、私の中で劉俊謙は「もはや信じて見る俳優だな」というようなことを思いました(推しフィルター込みなのはさておき)。

『幻愛』は劉俊謙の映画デビュー作として知られています。ウィキペディア基準で劉俊謙は2015年ごろから芸能活動を開始、初期は舞台やテレビドラマへの出演がメインだったようです。2018年にテレビドラマ『教束』で冴えない中学教師の役で主演を飾り、一気に知名度が上がりました。(詳細は、紅水蜜桃さんの連載「推しは香港に在り 第19回」に詳しいです)

ドラマの主演で知名度が上がったところで、『幻愛』の主演です。ただ、この主演も最初から劉俊謙がキャスティングされていたわけではなく、当初決まっていた俳優が諸般の事情で降板したため、オーディションを経て撮影開始の2か月前に決まったようでした。

オーディションには8人の同年代の俳優が参加しましたが、その中で唯一、劉俊謙は「精神病患者としての李志樂ではなく、李志樂という人物を演じていた」点が決め手となり、李志樂役としてキャスティングされました(こちらの記事を参照)。

たしかに統合失調症の症状が出て、もがき苦しんでいる場面はまさに迫真の演技です。しかし、劉俊謙の演技としての魅力は当然その部分だけでなく、むしろそれ以外の場面で李志樂の人間性を映した演技が要のように思いました。劉俊謙の出演作をすべて時系列に観たわけではないですが、今回『幻愛』を観て、私の中では“信じて見る俳優・劉俊謙”が確立されました。

セシリア・チョイ(蔡思韵)の再発見

映画は、統合失調症の女性が街中で幻覚が見える症状が出てしまい、そこに李志樂葉嵐が居合わせる場面から始まります。そこで李志樂葉嵐に一目ぼれします。

その後、李志樂葉嵐にそっくりな女性、欣欣(ヤンヤン)と出会って2人は恋に落ちるのですが、実はこの欣欣李志樂が見ていた幻覚・妄想でした。実際に2人が会っていた事実はどこにもありません。

李志樂は後に、街中で葉嵐と初めて会ったときのことを「君は天使のようだと思った。周りの人が(統合失調症の女性を)冷たい目で見ているとき、君だけが彼女を守っていた。それを見て、同じ病気である自分も守られているような気がした」と振り返っています。あの日街中で一目ぼれした葉嵐欣欣に投影していたのかなと思いました。

『幻愛』でセシリアは、葉嵐欣欣を1人2役で演じています。先に欣欣の方は、これまたとにかく天使(だった)。めちゃくちゃ可愛くて、優しい、守ってあげたくなるような女性です。

一方で葉嵐は、どちらかというとクールで冷静な雰囲気。李志樂との関係も、葉嵐の論文の研究対象である「恋愛妄想」のケースがなかなか見つからないなかで、やっと見つけた患者(李志樂)を離したくないという感じがしていて、個人的には葉嵐の方がとっつきにくい印象を持っていました。

しかし、葉嵐も過去のトラウマを抱えていて、李志樂の優しさに触れていくうち、抱えているトラウマや苦しみを吐露するまでに李志樂に惹かれていきます。とくに葉嵐の感情が爆発するシーンは個人的には衝撃で、「セシリア(※役)のこんな表情を見てしまった……」という謎の罪悪感?もあったくらいでした。最終的には私も葉嵐の方に感情移入してしまって、

「イップ・ラム(葉嵐)、落ち着け……あなたは研究を続けなさい……」(※真面目です)

「地球上に男は何人いると思ってるの……35億」(※至って真面目です)

などと思いながら、祈るように見ていました。一方で欣欣は、最初は天使そのものという感じなんですが、後半にかけては逆に悪魔のような表情も見せるようになります。

セシリアは『幻愛』で葉嵐欣欣の1人2役を演じていて、その演じ分けだけでもすごいのですが、それぞれのキャラクターも前半と後半では全然違う人のようになっていく過程と結果も見事に演じ切っています。そういう意味で個人的に『幻愛』はセシリアの再発見でした。

最後の“再会シーン”は現実か幻か

『幻愛』の見どころは、「臨床心理士(研究者)と患者」という、本来はフラットな関係でいなければならない2人が惹かれあっていく展開ではないかと思っています。2人の関係は問題になり、葉嵐の責任問題にまで発展します。

こういう構造は、廖子妤(フィッシュ・リウ)の『私の愛のかたち』の時にも同じようなことを思ったのですが、李志樂葉嵐の感情は本当の愛じゃないのか?というと、決してそんなことはないと思っています(そう信じたい)。ただ、『幻愛』の指摘で重要だなと思ったのは、葉嵐の指導教授がずっとブレずに研究者と患者の関係性について葉嵐にわからせようとしていたことです。

「CP(臨床心理士)が社会的に信頼されるためには、規則を守らねばならない」といったことを葉嵐に言い続けます。厳しいなと思ったりもしましたが、よく考えると「愛のある厳しさ」だったなと思います。

実際、李志樂葉嵐の関係も2人の感情が深まるごとに李志樂の症状(=欣欣の幻覚・幻聴)はひどくなっていきます。つまらないガチレスをするとカウンセリングどころか悪化しているので2人は離れた方がいいに決まってると思うのですが、ここで始点に戻るとそもそもお互いに好き同士だから一緒にいたいのであって……という絶対に解けない知恵の輪のような行き詰まり感。

それを映画として解決しようとしたのが、最後のシーンだったのかなと思いました。初見では夢か現実か正直あまり自信がなかったのですが、2回目でやっと「冒頭のシーンと全く同じ服を着てる!」ということに気づきまして、「あ、最後のシーンは現実ではないのかもしれないな…」と思った次第です。もちろん違うかもしれないし、そもそも決まっていないのかもしれませんけどね!

おわりに

私はYouTubeに上がっている『幻愛』メイキングのセシリア編の動画が本当に大好きなのですが、そこで「これまで演じてきた役の中で一番好き、心に残る役だった」「葉嵐にお礼が言いたい」と話しているのが非常に印象的でした。葉嵐は難しい人物だと思いますが、そんな彼女にセシリアという理解者がいてくれて良かった、と思いました。

(筆者が葉嵐推しにつき、セシリアについての記述が多くなっていますが)劉俊謙が演じた李志樂、彼がまっすぐに人を愛する様子も心に残っています。劉俊謙がこの役をオーディションで勝ち取ることができた理由、「劉俊謙だけが、李志樂という人間を演じていた」という点に、この映画のメッセージが詰まっている気がしました。

そして、ご存じのとおり劉俊謙とセシリアはこの映画がきっかけで交際、2025年に結婚されたわけですが、「本人たちは、映画の撮影がすべて終わったあとに感情の整理をした」というような話をどこかで見た気がして、そのプロ意識にも感服しました。

劉俊謙とセシリアの結婚生活、それぞれのキャリアが今後もさらに発展することを祈っていますし、李志樂葉嵐もたとえ一緒にいれなかったとしても、どこかで幸せに暮らしていてくれればいいなと思っています。

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