『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』――皆さん、もう見てますか?

台湾や韓国の映画はぼちぼち見ていたが、香港の映画は守備範囲外だったわたくし。急になぜ香港映画の世界に足を踏み入れることになったのかはまた別途書くとして、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を見たことで、唐突に広東語の世界に興味を持ってしまった。
一つだけ言わせてもらうと、ぜんぶ信一のせいだ。
読めるけど読めない広東語
広東語に対して、皆さんどんなイメージをお持ちだろうか。私は今まで「香港で話されている中国語の方言の1つ」「声調の種類が多くて発音が難しい」くらいの認識だったのだが、今回広東語をしっかりやろうということで「そもそも広東語って何だ?」という根本的な部分から履修した。
この本を読んで、私が衝撃に思った点を中心に紹介しようと思う。広東語に興味を持ったそこのあなたに、まずお伝えしたいのが次の2点だ。
- 広東語は「言文不一致」な中国語
- 「中国語」活動は広東語だけでできる
出所:飯田真紀(2024)『広東語の世界』中央公論新社。
1. 広東語は「言文不一致」な中国語
日本語、英語、韓国語、中国語(普通話・國語)――私が多少なりとも知っているこれらの言語は、どれも「言文一致」の言語だ。ここでいう「言文一致」とは、「話すままに書き、書くままに話す」ということを表す。
正直あまりにも当たり前すぎて、「いやいや話し言葉と書き言葉が違う言語なんて存在するんか?」と思う人もいるかもしれない。
あるんだな、これが。
それがまさに広東語なわけだ。
広東語、そして普通話のベースになっている北京語の音(話し言葉)はまるで違う。もはや全く違う別の言語を話しているんじゃないかと思うくらい、違う。
しかし、これら2つの言語はどちらも「中国語」に分類される。では何がこの2つを「中国語」たらしめているのか。それは、書き言葉だ。つまるところ、漢字ということになる。
香港の標準的な書き言葉は北京語をベースにしてできている。もう少し正確に言うと、中国北方方言の語彙と文法をベースにしている。
出所:飯田真紀(2024)『広東語の世界』中央公論新社。
どういうことかというと、広東語も普通話も同じように中国語を書く。繁体字と簡体字の違いはあるものの、ほとんど同じ文法や語彙で書いているから、例えば香港の小説を北京の人が読んで理解することはできる。その逆もまた然りだろう。
では、広東語はなぜ「言文不一致」になるのか? 私は数ⅡBすら放棄したゴリゴリの文系人間なのだが、ちょっと数学的に(?)説明してみようと思う。
- 普通話 書き言葉→A、話し言葉→a
- 広東語 書き言葉→B、話し言葉→b
とすると、
- 普通話は言文一致 A=a
- 普通話と広東語の書き言葉は同じ A=B
- 普通話と広東語の話し言葉は違う a≠b
- では、広東語の書き言葉と話し言葉は? B□b
- 1と2を整理すると、A(普通話の書)=a(普通話の話)=B(広東語の書)
- 3より、普通話と広東語の話し言葉は違う a≠b なので、
- 4の広東語の書き言葉と話し言葉は、B≠b
よって、広東語は「言文不一致」ということになりマッス(息切れ)。
2. 「中国語」活動は広東語だけでできる
「え、ってことは、広東語は話し言葉専用の言葉なの?」
広東語の書き言葉は普通話と同じということで、話し言葉だけが広東語なのか? と思われる方もいるかもしれない。
それについては、鈴木さん(逆に新しい呼び方)のお力を借りて、全力で否定したい。
ちょっと分かりにくいかもしれないが(何ならここまでずーっと分かりにくい)、広東語使用者が「中国語を書く」とき、それは北京語で書いているのではなく、やっぱり「広東語で書いている」という認識になるのである。
どういうことか。ポイントは漢字の読み方にある。
例えば、「問題ない」の「沒問題」は、北京語の音では「メイウェンティー」と読むが、広東語の音では「ムッㇳマンタイ」だ。
え? 広東語の「沒問題」は「無問題(モウマンタイ)」じゃないの? と思った方、素晴らしい気づき。モウマンタイは「問題ない」の話し言葉で、一応繁体字で書くと「冇問題(モウマンタイ)」となる。

だから私のイメージは図のような感じ。これこそ広東語が「言文不一致」と言われる所以だと思う。書き言葉の方は字面は普通話と同じだが、「メイウェンティー」と書いているのではなく、あくまで「ムッㇳマンタイ」と書いているのだ。
ただ、どこまで話し言葉の広東語が使われるのかは、私もよくわからない。例えば手紙やメールは書き言葉だとして、チャットは?とか、小説のセリフの部分はどっち?とか、映画やドラマのシナリオはやっぱり話し言葉で書くん?とか疑問はいろいろと浮かぶ。
とにかく大事なのは、広東語の書き言葉が普通話と同じだからと言って、「広東語に書き言葉がないわけではない」ということだ。
広東語も普通話も同じように中国語を書くけれど、広東語と普通話で漢字の読み方が違う。だから普通話がわかれば、広東語で書かれた文章を「読んで理解することはできる」だろう。しかし、広東語の文章を広東語として「声に出して読むことができる」かと言うと、また別の問題になってくる。
広東語は私にとって「読めるけど、読めない」。今のところそういうことになる。
中国語というディズニーリゾートで
ここで、広東語に対する私の認識を振り返ってみたい。冒頭で私は広東語について、「香港で話されている中国語の方言の1つ」と思っていたが、その認識は現実と一致していないと思う。
(略)「話す・聞く・読む・書く」の4技能全ての「中国語」活動が行える広東語は、北京語と並ぶもう1つの標準中国語と言えるのではないか。
出所:飯田真紀(2024)『広東語の世界』中央公論新社。
広東語は方言の1つという位置づけではなく、それ自体で固有の中国語世界を構成することができる標準オプションの1つだという風に私も思い直したのである。
基本的に私は突拍子もないことを言い出す人間なのだが、「それってつまり、ディズニーランドとディズニーシーみたいなこと??」と考えるに至った。恥ずかしながら、これがこのブログのパンチラインだ。
つまり、ディズニーリゾートを中国語と見立てると、ディズニーランドが普通話、ディズニーシーが広東語みたいに例えられるのではないかと思ったのだ。
ランドもシーも同じディズニーという世界線でつながっているけど、パークの中身は全然違う。これと同じで、普通話も広東語も同じ中国語世界の言語だが、中身(とくに話し言葉)は違う。
でも中国語には、他にも上海語とか客家語など数々の方言が存在するが、それらと広東語は何が違うのか? と疑問に思う人もいるだろう。私はやはり、普通話が中国の公用語とされているように、広東語も香港の公用語の1つとして定められている点などから、「中国語の標準オプション」という位置づけがしっくりくる気がしている。
(ここら辺の主張は私の勉強量ではとても説明しきれないので、紹介した書籍『広東語の世界』をぜひご一読いただきたい)

で、どっちがランドでどっちがシーかという話(どうでもいい)! 超個人的な意見だが、今のところ「広東語がディズニーシーかな~」というのが私の意見だ。
理由はまあ、やっぱり港?(弱すぎる)もちろん中国にも上海とか深圳とか大きな港湾都市はあるが、香港の港アイデンティティ(?)は強くあってほしいかなと思った。でも本当に根拠が弱すぎるので異論は全然認めます。
広東語の世界へようこそ
信一のせいで軽率に広東語の世界に踏み込んだ人間としては、思ったより真面目に(?)勉強しようとしていることに自分でも驚いている。
広東語のオリエンテーションはこのくらいにして、次からは実際に広東語のレッスンを受けた話を書いていく予定だ。
先に言っておくと広東語を本当に基礎の基礎からやるので、「そんな低レベルな話をわざわざブログなんかに書くな!」と言われても仕方ないくらいの内容になりそうだが、そこは温かい目で……まさに龍捲風が信一を見守るように……(全然上手いこと言えてません)お付き合いいただけたら嬉しい。
コメント
コメント一覧 (2件)
はじめまして。私もトワイライト・ウォリアーズを観て広東語勉強したい!となったのでこちらのブログにとても共感しました。
『広東語の世界』を私も読み進めているのですが、広東語に対する認識が変わっていって、とても面白いです。ディズニーランドとシーの例え、わかる〜!ってなりました(笑)
レッスンのお話も楽しみにしています!
はじめまして。コメントありがとうございます!とても嬉しいです。
私もトワイライト・ウォーリアーズを見ながら、彼らの言葉がダイレクトに理解できたら…!と思い、広東語を勉強しようと一念発起しました(笑)
私も『広東語の世界』を読んで見方が大きく変わりました…。ディズニーの例え、共感してくださって嬉しいです!笑
お互い広東語の勉強を楽しみましょう!