もう観れないかと思っていた台湾映画『月老/赤い糸 輪廻のひみつ』が2025年3月から各地で再上映されているということで、観に行ってきました。結論、観れて本当に良かったです。
公式からもアナウンスがある通り、版権の関係でソフト化や配信ができず、日本での上映権も11月末で切れるとのこと。気になっている方は劇場でぜひ!
月老(赤い糸 輪廻のひみつ)
作品名
原題 | 月老(Till We Meet Again) | 2021年11月24日公開(台湾) |
邦題 | 赤い糸 輪廻のひみつ | 2023年12月22日公開(日本) |
月老/赤い糸 輪廻のひみつ、めっちゃ良かった〜
— Rii @広東語勉強中 (@rii_in_asia) April 24, 2025
ふと韓国のタイトルは만년이 지나도 변하지 않는 게 있어(直訳:一万年が経っても変わらないものがある)なのを知ってしまい個人的にはタイトルがクソデカ感情抱えてるの結構好きでwwでも国によってスポット当てる部分が違うだけでつまり全部愛 pic.twitter.com/jmBOa8hPEL
キャスト・スタッフ
キャスト
映画の役 | 俳優 | 出演作 |
石孝綸(シャオルン) | 柯震東(クー・チェンドン) | 『あの頃、君を追いかけた』(2011) |
小咪(シャオミー) | 宋芸樺(ビビアン・ソン) | 『私の少女時代』(2015) |
ピンキー | 王淨(ワン・ジン) | 『僕と幽霊が家族になった件』(2022) |
鬼頭成 | 馬志翔(マー・ジーシアン) | 『セデック・バレ』(2011) |
スタッフ
原作・監督・脚本 | 九把刀(ギデンズ・コー) | 『あの頃、君を追いかけた』(2011) |
主題歌
韋禮安 WeiBird《如果可以 Red Scarf》
私は映画を見る前に偶然この曲を聞き、先に曲からハマりました。なので曲だけでもずっと聞いていられるのですが、そんな方にこそ映画を見てほしいです!
というのも、映画の原作・監督・脚本を担っている九把刀(ギデンズ・コー)氏が作詞なので、歌詞と映画の一致度が半端じゃない。もはやそのまま映画で、歌詞の1つ1つを映画では実際の場面として見ることができます…。
あらすじ
台湾で縁結びの神様と言われる「月老(月下老人)」をモチーフに、ファンタジー要素強めの世界観で描かれている作品。正直あらすじを説明するのが難しく、思わず「1回見て!」と言いたくなる話です。
ただ、いきなり2時間の映画を見るのはハードル高くても、まずはこの2分の予告動画をぜひ!
落雷で死んだ主人公がたどり着いた冥界
主人公の孝綸(シャオルン)は、仲間と外でバスケットボールをしていたとき、突然の落雷で命を落としてしまいます。冥界に送られた孝綸は落雷の衝撃で生前の記憶を失っている状態です。
ここからが、かなりファンタジー。冥界に行った人は転生することができます(そういう設定です)が、再び人間に生まれ変われるか、はたまた人間以外の生物に生まれ変わるかは、その人の生前の行いによって決まります。
簡単にいうと、善行が多ければ再び人間になれる可能性が高く、そうでなければ動物とか虫とかに転生するというわけです。このあたり、バカリズムの『ブラッシュアップライフ』と近いものを感じました。
さらに面白いのは、死後に配布される白と黒の珠がつながれた数珠で、生前の善行・悪行の割合が可視化されていること。白の珠(善行)が100%であれば人間に、95%で犬、逆に黒の珠(悪行)が多ければカタツムリやゴキブリに転生するといった具合です。
(白の珠を人間の所定個数であるフル+1個集めると猫に転生できるの、なんかいいですよね)
主人公の孝綸ですが、憎めない奴だけどガキんちょっぽい性格で、善行だけをしてきたとは言い難い。現状、孝綸の転生先はゴキブリ。もう来世はゴキブリになるしかないのか…と思いきや、月老となって冥界の仕事しながら徳を積むと黒の珠を白に変えることができ、希望の転生先に行ける可能性が残されています。
ピンキーとの出会い
孝綸は冥界で死後の手続きを受けている間、自分の死を受け入れられず泣きわめいている別の死者と出会います。それがピンキーです。ピンキーは生前クズ男に虐待を受け、不遇の死を遂げていました。
ピンキーは気が強く、正直口も悪い。孝綸とはいつもしょうもないことで言い合いをしているのですが、何だかんだで気が合う2人です。
さて、死者が月老になるためには①月老の仕事を一緒にやるパートナーを見つけて、②パートナーと2人で月老になるためのミッションをクリアしなければなりません。
(月老の制服がかわいくて好きです。しかしみんな黒珠が多くないか※人生いろいろあるよね)
相性のいい月老同士がペアを組む必要がありますが、孝綸は結局ピンキーとペアを組み、2人は月老のミッションに成功します。
孝綸が生前の記憶を取り戻すまで
月老となり再び人間界に戻ってきた孝綸とピンキーは、縁結びの仕事をしながら孝綸の生前の記憶を取り戻そうとします。
そこで孝綸の故郷にやって来た2人は、1匹の犬(=阿魯/アールー)と出会います。すると阿魯を見て涙を流す孝綸。阿魯は孝綸が子どもの頃に助けた犬で、孝綸はこれをきっかけに生前の記憶を取り戻していきます。
勝手に歩き回っていた阿魯を探して飼い主がやって来ますが、それが小咪(シャオミー)です。
小咪は孝綸の初恋の相手で、子どもの頃に孝綸の小学校に転校してきました。小咪に一目惚れした孝綸は、しきりに「結婚してほしい」とプロポーズしていましたが、相手されません。
そのまま中学、高校、大学と幼なじみ的な関係を続けてきた2人ですが、小咪が孝綸の思いに応えようとした時にちょうど、孝綸が落雷で命を落としてしまったのです。
最後までのあらすじ・感想※ネタバレ
ここからは物語の核心に触れるネタバレありの感想なので、未視聴の方は注意してお読みください。
孝綸・小咪・ピンキーの切ない三角関係
孝綸とピンキーは月老として人間界に戻って来ている状態ですが、言ってもすでに死んでいるので生きている人から彼らの姿は見えません。しかし、小咪も落雷の衝撃で幽霊が見えるようになり、小咪には孝綸やピンキーの姿が見えていました。
孝綸が急に死んでしまい気を落としていた小咪ですが、月老となって目の前に現れた孝綸と再会し元気を取り戻します。ここから人間と月老の不思議な三角関係が始まり、孝綸は小咪と束の間幸せな日々を過ごします。
ただ、そんな孝綸と小咪を複雑な気持ちで見ているのが、ピンキーです。最初は孝綸のことは何とも思っていませんでしたが、月老として一緒に過ごしているうちに孝綸を好きになっていました(わかる)。小咪はピンキーのことも見えるので、ピンキーが孝綸を好きなのに気づいています。
もう小咪もピンキーも切ない!!!そしていつも孝綸だけが何も分かってない!!孝綸は本当そういうところ!!!(怒)(好)
小咪の赤い糸は誰に?
さて、月老の仕事は人間たちの縁結びですが、赤い糸がなかなか結ばれない人間がいました。それが小咪です。
小咪は未だに孝綸が好きなので、月老が誰かとの縁結びをしようとしても(小咪自らの意思でかどうかは分かりませんが)赤い糸が切れてしまうのです。小咪の赤い糸は誰と、どんな状況で結ばれるのか…。
怨霊との戦い
映画の中盤あたりからもう1人のストーリーが立ち上がってきて、これが結構怖かった。鬼頭成(グイトウチェン)という人の話で、前世で山賊をしていたときに仲間に裏切られて死んだことから、死後も復讐をして回っています。私は怨霊のような存在かなと思って見ていました。
前世の恨みを誰に晴らすんだという話になりますが、鬼頭成は前世で自分を裏切った人たちが転生した今の人間に復讐をしています。
人間に前世の記憶はないので前世で自分が鬼頭成を裏切ったなど知る由もないのですが、鬼頭成は人間たちがそれを忘れていることも許せない。また、小咪も鬼頭成の復讐相手に含まれていて、鬼頭成から命を狙われています。
鬼頭成は狂暴化し、冥界の守護神である牛頭馬頭(ごずめず)をもってしても鎮圧できない状態になっていました。クールな牛頭とちょいゆるの馬頭、ここのバディも良かったし戦闘シーンはカッコよかったです。
(たぶん向かって左が馬頭、向かって右が牛頭)
人々の記憶が紡ぐ縁
そして、鬼頭成の手は遂に小咪にも及びます。孝綸も小咪を助けようと鬼頭成と戦いますが、なかなか倒せない。そんな時、孝綸はふと前世で自分が蝉だったこと、その時に鬼頭成が自分を助けてくれたのを思い出し、鬼頭成に「謝謝!」と叫び続けます。
すると、鬼頭成の恨みが晴れていき、成仏なのか何なのかメカニズムは分からないのですが、鬼頭成の力がなくなり戦いも終わります。
孝綸が「謝謝!」と叫び続けるこのシーンは、(正直ピンキー推しの)私も一番感動したシーンでした。最初見ているうちは「そんなことで鬼頭成の恨みが晴れるの?」とか思ったりしたのですが、鬼頭成にとっては「そんなこと」すら思い出してくれる人はずっといなかった。前世で仲間に裏切られた深い悲しみ、その後もどれだけ孤独だったのだろうかと想像しました。
『赤い糸 輪廻のひみつ』においても、コーは「主人公のシャオルンが正面から敵と戦わず、ひざまずいて感謝し、和解の道を探るところを描けたのがよかった」と話す。「この映画で最も温かく、ヒューマニズムを感じられる部分。クー・チェンドンは素晴らしい演技をしてくれました」
出所:『ゴジラ-1.0』の山崎貴が台湾映画の鬼才ギデンズ・コーと語る創作の秘密(https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c030290/)
引用の記事でギデンズ・コー監督が言う通り、敵と正面から戦わず和解の道を探るのが孝綸っぽいなと思います。彼の真っ直ぐな思いが鬼頭成の心にも届いたのでしょう。
しかし、孝綸や小咪の難局は続きます。小咪は鬼頭成に攻撃されて瀕死の状態になっていたので、どうにかして小咪の命を救わなければハッピーエンドは迎えられません。ここで効いてくるのが、月老の縁結びの能力。
月老 の法則
その1.ジェンダーもセクシュアリティも何物も愛を妨げない
その2.赤い糸で結ばれると、愛が実るまで命が尽きることはない出所:映画『赤い糸 輪廻のひみつ』公式サイト(https://taiwanfilm.net/yuelao/)
法則その1は映画の前半で事例が出てきましたが、その2が本領発揮します。小咪とラブラブしたり鬼頭成と戦ったりして月老の仕事を全然していませんでしたが、【速報】孝綸、月老の本業に復帰。本業忘れてなくてよかった。
要は、小咪と誰かを赤い糸で結ぶことができれば、その愛が実るまで命が尽きることはないから、小咪の命を助けることができるというわけです。よく考えられています。
そして!全私が待っていたピンキーの活躍!!ピンキーも猛ダッシュで小咪の相手を探しに行きます。最終、きっとピンキー的にも「この人なら大丈夫」と思える相手だったのではないかと思いました。
あと最後ほんのり語られたのが、孝綸と小咪は前世で夫婦だった(?) 小咪が最後に「全部思い出した」と言っていたのでいちおう私はそのように理解しています。だから、孝綸は小咪に一目惚れしたわけではなく、「来世でも必ず小咪を見つける」という約束を果たしたのでしょう。
(おそらく前世で夫婦だった孝綸と小咪は一緒に転生した)
【まとめ】感動スイッチがありすぎる映画
エピローグ的な部分で孝綸とピンキー、小咪がその後どうやって過ごしているかが描かれます。最後まで孝綸の「1万年経っても変わらないものがある」が繰り返されて嬉しかったです。
そして、この映画は人間同士の動きだけでなく犬(阿魯)との関わりにも感動しました。言ってしまうと忠犬ハチ公のような要素。阿魯は子犬の頃に孝綸が助けてくれたのをいつまでも覚えていて、孝綸を小咪のもとに導いてくれます。
この映画、冒頭で主人公は死んでしまうし、死んでいる主人公と生きているヒロインが結ばれるのは常識的に考えてもあり得ないので、やっぱり悲しくて切ない物語であるのは確かです。でも、見ているうちに不思議とそういう題材だったことを忘れてしまうような楽しさがありました。
ギデンズ・コー監督が先の記事で「『死は怖いことじゃない』というメッセージを映画に注ぎ込むのが難しかった」とも話していましたが、月老のワイワイとした雰囲気や孝綸たちが生き生きとしている(死んでるけど)のを見ながらそう感じたのだと思います。
あとは、人は物質的には死んでしまっても、人の縁が消えることはないというのを映画を通して感じました。でも、繰り返しますが死んでしまったら現世は終わりなので、今を大切に生きることが大事だとも肝に銘じました。
長文! 最後まで読んでいただきありがとうございます。念のため、2025年4月現在『赤い糸 輪廻のひみつ』はまだ劇場で見れるはずなので、気になる方は劇場でぜひ見てください~。
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